読書ガイド

喪失を描いた小説おすすめ6選

大切な人がいなくなったあとも、台所に立ち、ごはんを食べ、朝は来る。その時間をまっすぐ書いた小説たち。

発行: Simran Mehta 更新日

『リミナル・フィクション ― 世界のはざまの列車』(シムラン・メータ)の表紙

このサイトの小説 · 第1作 日本語版

リミナル・フィクション ― 世界のはざまの列車

日本語版

喪失を、記憶と忘却の側から描いた幻想的な物語が読みたい人には、このサイトの小説の日本語版『リミナル・フィクション ― 世界のはざまの列車』を。目が覚めると見知らぬ列車の中、切符には「行き先:不明」とだけある。自分が誰なのかも思い出せない青年エリオが、記憶のかけらを拾い集めながら、なぜここにいるのかを組み立て直していきます。「降りれば、何かを失うかもしれない」という列車の物語で、上の6冊のような現実の喪の時間ではなく、失ったものと向き合うまでの「あいだ」を描いた幻想ミステリーです。日本語版はAmazon.co.jpのKindleで読めます(Kindle Unlimited対象)。

結論

喪失を描いた小説を一冊だけ選ぶなら、吉本ばなな『キッチン』です。たった一人の家族だった祖母を亡くした主人公が、台所という場所を頼りに、少しずつ日々を取り戻していく。悲しみを大げさに書かず、それでも生きていく手ざわりを書いた短い小説で、喪失の直後にも読めるやさしさがあります。青春の喪失なら村上春樹『ノルウェイの森』、泣けない自分に戸惑う人には西川美和『永い言い訳』、子どもを失う悲しみにはマギー・オファーレル『ハムネット』を。

喪失の小説を選ぶときに

ここで紹介するのは、病気としての「記憶喪失」ではなく、人を失うこと、その悲しみ(グリーフ)を描いた小説です。記憶をなくす物語を探している人は記憶喪失の小説おすすめをどうぞ。

  • いま、悲しみの中にいる人には、短く、静かな本を。『キッチン』『夏の庭』から。
  • 少し時間がたった人には、悲しみの「その後」を描いた本を。『永い言い訳』『ノルウェイの森』。
  • 失うことを、前もって考えたい人には『その日のまえに』。
  • 子どもを亡くした悲しみには『ハムネット』。ただし、つらい場面がはっきり描かれます。

すべて日本語で手に入る版を、出版社と刊行年で確かめています。結末には触れません。

喪失を描いた小説 6選

  1. キッチン 吉本ばなな

    福武書店/新潮社(新潮文庫) · 1988

    祖母を亡くし、天涯孤独になった桜井みかげ。眠れるのは台所の冷蔵庫のそばだけ、という彼女を、祖母と親しかった青年・田辺雄一と、その「母」えり子が家に迎え入れる。悲しみの真ん中にいるのに、文章は驚くほど軽く、明るい台所の光や、誰かと一緒に食べるごはんの温かさのほうがくっきり残ります。喪失を乗り越えるのではなく、喪失を抱えたまま、ごはんを作り、誰かと食べることで日々をつないでいく話です。同じ本に入っている「ムーンライト・シャドウ」も、恋人を亡くした少女の物語で、二編あわせて読むとこの作家の喪失の書き方がよく分かります。

    向かない人:

    悲しみを重く、写実的に描いた小説を求める人。不思議な出来事も起こる、軽やかな語りの作品です。

    確認した情報源: 国立国会図書館サーチ:キッチン(福武書店、1988年), 国立国会図書館サーチ:新潮文庫版(2002年)

  2. ノルウェイの森 村上春樹

    講談社(講談社文庫) · 1987

    高校時代の親友キズキを自殺で失ったワタナベは、東京の大学に進み、キズキの恋人だった直子と再会する。二人を結びつけているのは、同じ人を失ったという一点だけ。やがてワタナベの前には、生きることに向かって走っていくような同級生の緑も現れます。死んだ人に引っぱられる心と、生きている人に引き寄せられる心のあいだで揺れる青春小説で、村上春樹の作品のなかではもっとも写実的な長編です。「死は生の対極としてではなく、その一部として存在している」という感覚を、二十歳の目で書いた一冊です。

    向かない人:

    性的な描写が苦手な人。自殺が繰り返し描かれるので、身近にそうした経験がある人は時期を選んでください。

    確認した情報源: 国立国会図書館サーチ:ノルウェイの森(講談社、1987年), 国立国会図書館サーチ:講談社文庫版(2004年)

  3. 夏の庭 The Friends 湯本香樹実

    福武書店/新潮社(新潮文庫) · 1992

    人が死ぬところを見てみたい。小学六年生の三人組は、町はずれにひとりで住む、もうすぐ死にそうなおじいさんを見張りはじめる。ところが、見張られていることに気づいたおじいさんと少年たちのあいだに、草むしりや洗濯や庭仕事を通して、思いがけない夏が始まる。子どもの目から「死ぬとはどういうことか」を正面から描いた物語で、読み終えると、失った人と過ごした何でもない時間のことを思い出さずにいられません。児童文学として書かれていますが、大人が読むほど効く一冊で、多くの言語に翻訳されています。

    向かない人:

    大人の複雑な喪の物語を求める人。語り手は小学生で、文章もやさしく書かれています。

    確認した情報源: 国立国会図書館サーチ:夏の庭(福武書店、1992年), 国立国会図書館サーチ:新潮文庫版(1994年)

予告編(30秒)

  1. 永い言い訳 西川美和

    文藝春秋(文春文庫) · 2015

    人気作家の衣笠幸夫は、妻がスキー旅行のバス事故で亡くなったと知らされたとき、自宅で別の女性と過ごしていた。葬儀でも涙が出ない。そんな彼が、妻と一緒に亡くなった親友の家族、トラック運転手の夫と二人の子どもと出会い、子どもたちの世話を買って出る。喪失の小説は「泣ける」ものが多いなかで、この本は悲しめない人、愛していたのかどうかさえ分からない人の側から書かれています。自分の悲しみ方がおかしいのではと不安な人に、こういう喪もあると教えてくれる一冊。直木賞候補作で、著者自身の監督・脚本で映画にもなりました。

    向かない人:

    共感できる主人公を求める人。幸夫は最後まで身勝手なところの多い人物です。

    確認した情報源: 国立国会図書館サーチ:永い言い訳(文藝春秋、2015年), 国立国会図書館サーチ:文春文庫版(2016年), Wikipedia:永い言い訳

  2. その日のまえに 重松清

    文藝春秋(文春文庫) · 2005

    大切な人の死が近づいている人たち、そしてその死のあとを生きる人たちを描いた連作短編集です。一編ずつは独立して読めますが、後半に進むにつれて、別々に見えた物語が静かにつながっていきます。突然の喪失ではなく、「その日」が来ることが分かっている時間をどう過ごすのか、そして「その日」のあとに何が残るのか。重松清らしい、ごく普通の家族の言葉で書かれているので、大げさな感動ではなく、身近な誰かのことを思いながら読める本です。病気で家族を見送った経験がある人には、とくに深く届くはずです。

    向かない人:

    いま家族の看病をしている、あるいは見送った直後で、病気による死の描写を読むのがつらい人。

    確認した情報源: 国立国会図書館サーチ:その日のまえに(文藝春秋、2005年), 国立国会図書館サーチ:文春文庫版(2008年)

  3. ハムネット マギー・オファーレル

    原題: Hamnet

    新潮社(新潮クレスト・ブックス) · 2021 · 訳: 小竹由美子

    16世紀のイングランド。夫がロンドンで芝居の仕事をしているあいだ、妻のアグネスは子どもたちを育てている。疫病が町に入り込んだとき、彼女は家族を守ろうと必死に手を尽くす。物語の中心にあるのは、十一歳の息子ハムネットの死と、その後に残された母の悲しみです。夫がのちのシェイクスピアであることは、ほとんど背景に退いていて、これは何よりもまず、子どもを失った一つの家族の小説として読めます。草や薬草や手ざわりの描写が濃密で、悲しみが体の感覚として迫ってきます。英国の女性小説賞と全米批評家協会賞を受賞。

    向かない人:

    子どもの死を描いた物語を、いまは読めない人。病気と死の場面がはっきり描かれます。

    確認した情報源: 新潮社:ハムネット(新潮クレスト・ブックス、2021年、小竹由美子訳), 国立国会図書館サーチ:ハムネット

どれから読む? タイプ別早見表

いまの気持ちおすすめ
短く、やさしい本がいい『キッチン』『夏の庭』
喪失を抱えた青春『ノルウェイの森』
うまく悲しめない『永い言い訳』
見送る前、見送ったあと『その日のまえに』
子どもを失う悲しみ『ハムネット』

悲しいときに、悲しい本を読むということ

大切な人を失ったあと、明るい本が読めなくなることがあります。逆に、悲しみを描いた本だけが、いまの自分の気持ちに追いついてくれると感じることもある。喪失の小説は答えをくれるわけではありませんが、「この気持ちを知っている人がほかにもいた」と分かるだけで、少し息がしやすくなることがあります。読むのがつらくなったら、途中でやめてかまいません。本は、また読める日まで待っていてくれます。

思いきり泣ける物語が読みたい人は泣ける小説おすすめを、亡くなった人にもう一度会う物語なら『コーヒーが冷めないうちに』に似た本を、家族が少しずつ記憶を失っていく話なら認知症を描いた小説もどうぞ。

よくある質問

読者からよく聞かれること

喪失を描いた小説で、最初に読むなら?

吉本ばなな『キッチン』です。祖母を亡くした主人公が少しずつ日常を取り戻していく短い小説で、喪失の直後でも読みやすい一冊です。

「喪失と再生」をテーマにした小説は?

『キッチン』と『永い言い訳』です。どちらも、失ったあとにほかの誰かと食卓を囲むことで、少しずつ生き直していく物語です。

子どもを亡くした親の気持ちを描いた小説は?

マギー・オファーレル『ハムネット』です。十一歳の息子を失った母アグネスの悲しみが中心にあります。

記憶喪失の小説とは違うのですか?

このページは人を失う悲しみを描いた小説です。記憶をなくす物語は記憶喪失の小説おすすめにまとめています。

もうひとつの予告編(30秒)