読書ガイド

電車・鉄道が舞台の小説おすすめ8選

同じ車両に乗り合わせた他人、窓の外を流れる景色、決まった時刻に着く駅。列車は、物語がいちばん起こりやすい場所です。

発行: Simran Mehta 更新日

『リミナル・フィクション ― 世界のはざまの列車』(シムラン・メータ)の表紙

このサイトの小説 · 第1作 日本語版

リミナル・フィクション ― 世界のはざまの列車

日本語版

走り続ける列車そのものが謎になっている物語が読みたい人には、このサイトの小説の日本語版『リミナル・フィクション ― 世界のはざまの列車』を。目が覚めると見知らぬ列車の中、切符には「行き先:不明」とだけある。自分が誰なのかも思い出せない青年エリオが、浮かぶ庭、記憶が棚に並ぶ部屋、本がささやく図書室と、現実から少しずつ外れていく車両を進んでいく幻想ミステリーです。上の8冊のような現実の路線は出てきません。『銀河鉄道の夜』や『夜行』の側の、どこへ向かうのか分からない列車の物語です。日本語版はAmazon.co.jpのKindleで読めます(Kindle Unlimited対象)。

結論

電車が舞台の小説を一冊だけ選ぶなら、有川浩『阪急電車』です。片道15分ほどのローカル線に乗り合わせた人たちの小さな出来事が、駅ごとにつながっていく連作で、読み終えると自分の通勤電車まで少し違って見えます。鉄道小説のおすすめを気分で選ぶなら、スピード感なら伊坂幸太郎『マリアビートル』、本格ミステリーなら松本清張『点と線』とクリスティー『オリエント急行の殺人』、泣きたいなら浅田次郎『鉄道員(ぽっぽや)』、不思議な夜の旅なら森見登美彦『夜行』と宮沢賢治『銀河鉄道の夜』を。

電車・鉄道小説の選び方

「電車 小説」「鉄道 小説 おすすめ」で探している人が求めているものは、だいたい次の四つのどれかです。

  • 日常の電車:通勤・通学の車内で、知らない人の人生がふっと交差する話。
  • 列車ミステリー:時刻表、密室になった車両、乗客全員が容疑者。
  • 泣ける鉄道:駅や線路を守ってきた人の、仕事と家族の物語。
  • 幻想の列車:どこへ向かうのか分からない、夜の列車。

下の8冊は、この四つから二冊ずつ選んでいます。列車が背景に出てくるだけの小説ではなく、電車や駅がなければ成り立たない物語だけを選びました。すべて日本語で手に入る版を、出版社と刊行年で確かめています。

電車・鉄道が舞台の小説 8選

  1. 阪急電車 有川浩

    幻冬舎 · 2008

    阪急今津線の片道15分ほどの区間を舞台に、駅ごとに視点が移っていく連作短編です。図書館で見かけた人に電車で再会する若い男女、結婚式に「討ち入り」してきた帰りの女性、孫を連れた年配の女性。ある章で脇役だった人が次の章では主役になり、行きの電車で始まった話が帰りの電車で少しだけ進む。大事件は起きませんが、他人どうしが同じ車両に乗っているという、それだけのことがこんなに物語になるのかと気づかされます。2011年に映画化もされた、電車小説の入門にいちばん向いた一冊です。

    向かない人:

    謎や大きな事件で引っぱる物語を読みたい人。恋愛の比重も大きく、甘めの読み味です。

    確認した情報源: 国立国会図書館サーチ:阪急電車(幻冬舎、2008年)

  2. マリアビートル 伊坂幸太郎

    角川書店(角川文庫) · 2010

    東京から北へ走る東北新幹線に、なぜか殺し屋ばかりが乗り合わせてしまう。息子を傷つけた相手に復讐しようとする元殺し屋、二人組の殺し屋「蜜柑」と「檸檬」、とにかく運の悪い「天道虫」、そして大人を見下す中学生。限られた車両と停車駅のあいだで、トランクの奪い合いと騙し合いが加速していきます。走っている列車からは降りられない、という鉄道ならではの密室が、最後までスピードを落とさずに効いてくるエンターテインメントです。『グラスホッパー』と同じ世界の話ですが、これだけ読んでも楽しめます。映画『ブレット・トレイン』の原作。

    向かない人:

    暴力描写が苦手な人。軽快な語り口ですが、人はたくさん死にます。

    確認した情報源: 国立国会図書館サーチ:マリアビートル(角川書店、2010年), 国立国会図書館サーチ:角川文庫版(2013年)

  3. 点と線 松本清張

    光文社/新潮社(新潮文庫) · 1958

    博多の海岸で見つかった男女の遺体。誰もが心中だと考えるなか、ベテラン刑事と東京の若い警部補は、ある人物のあまりにも完璧なアリバイに引っかかりを覚える。手がかりは、東京駅のホームで、ほんのわずかな時間だけ見通せた別の列車。時刻表を一行ずつ追いながら、ありえないはずの移動を崩していく過程は、いま読んでもそのまま面白い。日本の「時刻表ミステリー」「トラベルミステリー」はここから始まったと言われる古典で、長さも手ごろ。鉄道小説を読むならまず押さえておきたい一冊です。

    向かない人:

    派手などんでん返しを期待する人。地道な検証で進む、昭和の刑事の物語です。

    確認した情報源: 国立国会図書館サーチ:点と線(光文社、1958年), 国立国会図書館サーチ:新潮文庫版(1971年)

  4. オリエント急行の殺人 アガサ・クリスティー

    原題: Murder on the Orient Express

    早川書房(クリスティー文庫) · 2011 · 訳: 山本やよい

    冬のヨーロッパを走る豪華寝台列車が、大雪で立ち往生する。その夜、一人のアメリカ人乗客が刺し殺されて見つかった。外から誰も入れない車両の中で、乗り合わせた名探偵ポアロが、国籍も身分もばらばらな乗客たちから一人ずつ話を聞いていきます。閉じ込められた列車、全員に何かありそうな乗客、そしてミステリー史に残る結末。何度も映画やドラマになっているので筋を知っている人も多いはずですが、小説で読むと、ポアロの聞き取りの一つひとつがどれだけ周到に組まれているかに驚きます。山本やよいの新訳は会話が読みやすく、初めてのクリスティーにも向いています。

    向かない人:

    映像化で結末を知っていて、謎解きの驚きだけを求める人。種明かしを知った上でも楽しめますが、驚きは減ります。

    確認した情報源: 国立国会図書館サーチ:オリエント急行の殺人(クリスティー文庫、2011年、山本やよい訳)

予告編(30秒)

  1. 終着駅殺人事件 西村京太郎

    光文社(光文社文庫) · 1980

    青森の高校の同級生7人が、上野駅から寝台特急「ゆうづる」に乗って、そろって故郷に帰ることになった。ところが出発前、上野駅で仲間の一人が刺殺され、その後も一人、また一人と命を落としていく。十津川警部と亀井刑事が、上野という「北への玄関口」と、夜行列車の旅をたどりながら事件を追います。数えきれないほどある西村京太郎のトラベルミステリーのなかで、日本推理作家協会賞を受けた代表作。夜行列車で故郷へ帰るという、いまは失われた旅の手ざわりも含めて味わえます。

    向かない人:

    人物の内面を深く掘り下げる小説を求める人。あくまで筋と謎で読ませるミステリーです。

    確認した情報源: 国立国会図書館サーチ:終着駅殺人事件(光文社カッパ・ノベルス、1980年), 国立国会図書館サーチ:光文社文庫版(2009年), Wikipedia:終着駅殺人事件(日本推理作家協会賞)

  2. 鉄道員(ぽっぽや) 浅田次郎

    集英社(集英社文庫) · 1997

    北海道の、廃線が決まったローカル線の終着駅。駅長の佐藤乙松は、幼い娘を亡くした日も、妻を見送った日も、駅に立ち続けてきた。定年を目前にした雪の正月、彼の前に一人の少女が現れる。短い作品ですが、鉄道員として生きた男の誇りと、その陰で失ってきたものが一度に押し寄せる結末は、何度読んでも胸に迫ります。表題作を含む短編集は直木賞を受賞し、高倉健主演で映画にもなりました。同じ本に収められた「ラブ・レター」なども、泣ける短編として知られています。

    向かない人:

    不思議な出来事が起こる話が苦手な人。現実の物語に、少しだけ幻想が入り込みます。

    確認した情報源: 国立国会図書館サーチ:鉄道員(集英社、1997年), 国立国会図書館サーチ:集英社文庫版(2000年), Wikipedia:鉄道員(小説)

  3. 夜行 森見登美彦

    小学館(小学館文庫) · 2016

    十年前、鞍馬の火祭の夜に、仲間の一人が姿を消した。再び鞍馬に集まったかつての仲間たちが、それぞれの旅先で出会った不思議な夜のことを語りはじめる。どの話にも、岸田道生という画家の連作銅版画「夜行」の影があり、そこには夜の木立の向こうを走る列車が描かれている。津軽へ向かう寝台特急、天竜峡へ向かう飯田線、そして叡山電車。四畳半もののにぎやかさとはまったく違う、静かでひんやりした森見登美彦です。直木賞候補作。読み終えたあと、夜の車窓に映る自分の顔が少し怖くなります。

    向かない人:

    すべての謎にはっきりした答えがほしい人。怪談らしく、説明されないまま終わる部分が残ります。

    確認した情報源: 国立国会図書館サーチ:夜行(小学館、2016年), 国立国会図書館サーチ:小学館文庫版(2019年), Wikipedia:夜行(小説)

  4. 銀河鉄道の夜 宮沢賢治

    新潮社(新潮文庫『新編 銀河鉄道の夜』) · 1989

    星祭りの夜、丘の上で横になっていたジョバンニは、気がつくと親友カムパネルラと一緒に、銀河を走る列車に乗っていた。白鳥の停車場、鳥を捕る人、途中から乗り込んでくる姉弟。窓の外の景色はどこまでも美しいのに、この旅がいつか終わることを、読者はどこかで感じ続けます。日本の「列車の物語」の原点と言える作品で、ほかのどの鉄道小説とも違う、透き通った寂しさがあります。新潮文庫の『新編 銀河鉄道の夜』には「よだかの星」「セロ弾きのゴーシュ」なども入っていて、一冊で賢治の代表作をまとめて読めます。

    向かない人:

    筋のはっきりした物語を求める人。未完成のまま残された作品で、問いかけるように終わります。

    確認した情報源: 新潮社:新編 銀河鉄道の夜(新潮文庫、1989年)

どれから読む? タイプ別早見表

読みたい気分おすすめ
日常の電車、やさしい読後感『阪急電車』
新幹線で一気読みのエンタメ『マリアビートル』
時刻表とアリバイ崩し『点と線』『終着駅殺人事件』
閉じ込められた列車の謎『オリエント急行の殺人』
泣ける鉄道の話『鉄道員(ぽっぽや)』
夜の列車と怪談『夜行』
幻想の列車『銀河鉄道の夜』

なぜ列車は物語になるのか

列車の中では、知らない人どうしが同じ方向へ、同じ速さで運ばれていきます。途中で勝手に降りることはできず、着く時刻は決まっている。だからこそ、ミステリーでは密室とアリバイになり、恋愛では偶然の再会になり、幻想小説では「どこへ連れていかれるのか分からない」不安になります。窓の外の景色が流れていくのに、車内の時間だけが止まっているような感覚。上の8冊は、その感覚をそれぞれ違うやり方で物語にしています。

『銀河鉄道の夜』の切なさをもっと味わいたい人は、列車が出てこない本も含めて選んだ『銀河鉄道の夜』みたいな小説を、どこにも着かない通路や乗り物の感覚が好きな人はリミナルスペースを感じる小説を、泣ける一冊を探している人は泣ける小説おすすめもどうぞ。

よくある質問

読者からよく聞かれること

電車が舞台の小説で、最初に読むなら?

有川浩『阪急電車』です。片道15分ほどのローカル線を舞台にした連作短編で、短い章ごとに読めるので、通勤・通学の電車の中で読むのにも向いています。

鉄道ミステリーのおすすめは?

古典なら松本清張『点と線』、列車ミステリーの金字塔ならクリスティー『オリエント急行の殺人』、トラベルミステリーなら日本推理作家協会賞を受けた西村京太郎『終着駅殺人事件』です。

泣ける鉄道小説はありますか?

浅田次郎『鉄道員(ぽっぽや)』です。廃線間近の駅を守る駅長の短編で、直木賞を受賞した短編集の表題作です。

新幹線が舞台の小説は?

伊坂幸太郎『マリアビートル』です。東北新幹線に乗り合わせた殺し屋たちの物語で、映画『ブレット・トレイン』の原作です。

『銀河鉄道の夜』のような幻想的な列車の小説は?

森見登美彦『夜行』が、夜の列車と旅先の怪談を組み合わせた現代の作品です。列車にこだわらず似た読み味の本を探すなら、『銀河鉄道の夜』みたいな小説にまとめています。

もうひとつの予告編(30秒)