読書ガイド

記憶喪失の小説おすすめ7選

「自分が誰なのか、思い出せない」「大切な人のことを、明日には忘れてしまう」。記憶をなくす物語は、なぜこんなにも胸に残るのでしょうか。

発行: Simran Mehta 更新日

『リミナル・フィクション ― 世界のはざまの列車』(シムラン・メータ)の表紙

このサイトの小説 · 第1作 日本語版

リミナル・フィクション ― 世界のはざまの列車

日本語版

記憶をなくした主人公が謎を追う、幻想寄りの物語が読みたい人には、このサイトの小説の日本語版『リミナル・フィクション ― 世界のはざまの列車』を。目が覚めると見知らぬ列車の中。どうやって乗ったのかも、自分が誰なのかさえも思い出せない青年エリオが、記憶が棚に並ぶ部屋、本がささやく図書室と車両を進むうちに、ひとりだけ彼を知っているような少女ルミに出会います。病気を描いた小説ではなく、記憶喪失と列車と幻想ミステリーを重ねた物語で、謎を追ううちに静かなラブストーリーへと変わっていきます。日本語版はAmazon.co.jpのKindleで読めます(Kindle Unlimited対象)。

結論

記憶喪失の小説でおすすめを選ぶなら、泣ける恋愛なら一条岬『今夜、世界からこの恋が消えても』、温かい読後感なら小川洋子『博士の愛した数式』です。病気としての記憶の喪失を本人の目から描いた荻原浩『明日の記憶』、長く読み継がれてきた名作ダニエル・キイス『アルジャーノンに花束を』、そして記憶そのものが消えていく幻想的な世界なら小川洋子『密やかな結晶』とカズオ・イシグロ『忘れられた巨人』を。

記憶喪失の物語が心を打つ理由

記憶をなくす物語が胸に残るのは、記憶こそが「自分」や「誰かとのつながり」をつくっているからです。記憶が消えるとき、私たちは何を失い、何が残るのか。この記事では、記憶喪失や忘却をテーマにした小説を、恋愛、名作、ファンタジーの三つの方向から7冊選びました。ネタバレはありません。

  • 「自分とは何か」という問い:記憶がなくても、その人はその人なのか。
  • 愛の試され方:相手が自分を忘れても、想い続けられるか。
  • 今この瞬間の大切さ:明日忘れてしまうからこそ、今日が輝く。

恋愛:記憶喪失×恋の切なさ

  1. 今夜、世界からこの恋が消えても 一条岬

    KADOKAWA(メディアワークス文庫) · 2020

    クラスメイトに命じられ、「僕」は日野真織に嘘の告白をする。真織は「お互い本気で好きにならないこと」を条件にそれを受け入れ、偽りの恋が始まる。けれど彼女には秘密があった。前向性健忘のため、眠るとその日の出来事を忘れてしまうのだ。毎日が「はじめまして」から始まる恋を、日記とメモでつないでいく二人。設定はシンプルですが、ただ泣かせるだけでなく、忘れられる側と覚えている側の両方の痛みを描いています。第26回電撃小説大賞《メディアワークス文庫賞》受賞作で、2022年に映画化されました。

    向かない人:

    難病もの・泣かせる恋愛小説の定型が苦手な人。文体は軽く、ライト文芸の読み味です。

    確認した情報源: KADOKAWA:今夜、世界からこの恋が消えても(メディアワークス文庫、2020年)

  2. 博士の愛した数式 小川洋子

    新潮社(新潮文庫) · 2005

    交通事故の後遺症で、記憶が80分しかもたない元数学者の「博士」。そこへ派遣された家政婦の「私」と、その息子で博士に「ルート」と名づけられた少年。博士は毎朝、二人のことを忘れていて、背広にはメモが留められている。それでも、数式と野球を通して、三人のあいだには静かな絆が育っていきます。記憶がなくなる悲しさよりも、それでも毎日はじめから人と向き合おうとする博士のやさしさが残る小説で、記憶喪失ものの中でいちばん穏やかな読後感の一冊です。第1回本屋大賞受賞作。

    向かない人:

    大きな事件や劇的な展開を求める人。数学の話が多いので、数式の場面を読み飛ばせない人にも少し根気がいります。

    確認した情報源: 新潮社:博士の愛した数式(新潮文庫、2005年)

名作:記憶と人生を問う物語

  1. 明日の記憶 荻原浩

    光文社(光文社文庫) · 2004

    広告代理店で部長として働く五十歳の佐伯は、物忘れが増え、仕事に支障が出はじめる。病院で告げられた診断は、若年性アルツハイマー。娘の結婚を控え、まだまだ働き盛りのはずだった男が、手帳にメモを書き込み、記憶が消えていくことに抗おうとする日々が、本人の一人称で描かれます。病気を外から説明する小説ではなく、自分が自分でなくなっていく怖さを内側から体験させる小説です。それでも妻との関係には温かさがあり、最後の場面は長く心に残ります。第18回山本周五郎賞受賞。

    向かない人:

    家族が認知症と向き合っている最中の人。現実に近いぶん、つらく感じるかもしれません。

    確認した情報源: 国立国会図書館サーチ:明日の記憶(光文社文庫、2007年), 国立国会図書館サーチ:単行本(光文社、2004年)

  2. アルジャーノンに花束を ダニエル・キイス

    原題: Flowers for Algernon

    早川書房(ハヤカワ文庫NV) · 1978 · 訳: 小尾芙佐

    パン屋で働く三十二歳のチャーリイ・ゴードンは、幼い子どもほどの知能しかない。彼は、ネズミのアルジャーノンで成功した脳手術の被験者に選ばれ、「経過報告」を書きはじめる。手術のあと、報告の文章は日を追って変わっていき、読者は文体そのものの変化でチャーリイの知能の上昇を体験します。賢くなるにつれて見えてくる、周囲の人の本当の顔と、自分の過去。得ることと失うことをめぐる物語で、記憶の扱い方も印象的です。中編版はヒューゴー賞、長編版はネビュラ賞を受けています。

    向かない人:

    序盤の、誤字だらけのひらがなの文章が読みにくいと感じる人。仕掛けの一部なので、最初の数十ページは我慢して読んでください。

    確認した情報源: 紀伊國屋書店:新版(ハヤカワ文庫NV、2015年、小尾芙佐訳), 国立国会図書館サーチ:早川書房 1978年版

予告編(30秒)

  1. 密やかな結晶 小川洋子

    講談社(講談社文庫) · 2020

    その島では、ある朝ひとつずつ「もの」が消えていく。リボン、鈴、香水、鳥。消えたものは人々の心からも失われ、島の人々は淡々とそれを受け入れて暮らしている。けれど、消えたものを覚えていられる人もいて、その人たちは「記憶狩り」に追われることになる。小説家の「私」は、そうした人をひとり、家の隠し部屋にかくまう。静かで美しく、少しずつ怖さが増していく物語で、忘れることが個人の病ではなく世界のルールになったらどうなるのかを描いています。英訳版 The Memory Police は全米図書賞翻訳部門と国際ブッカー賞の最終候補になりました。

    向かない人:

    はっきりした理由や仕組みの説明を求める人。なぜものが消えるのかは、最後まで説明されません。

    確認した情報源: 講談社:密やかな結晶 新装版(講談社文庫、2020年)

ファンタジー:記憶をめぐる不思議な旅

  1. 忘れられた巨人 カズオ・イシグロ

    原題: The Buried Giant

    早川書房 · 2015 · 訳: 土屋政雄

    霧に覆われ、人々が過去の出来事をすぐに忘れてしまう、アーサー王亡きあとのブリテン。老夫婦アクセルとベアトリスは、遠い村にいるはずの息子を探して旅に出ます。二人は互いを深く気づかっているのに、自分たちの過去に何があったのかをはっきり思い出せない。旅が進むにつれて霧の正体が見えてくると、「思い出したい」という願いが本当に正しいのか、読者にも分からなくなっていきます。記憶喪失を、夫婦の愛と、国や民族が抱える忘却の問題にまで広げた、大人向けの静かなファンタジーです。

    向かない人:

    剣と魔法の冒険を期待する人。竜や騎士は出てきますが、物語はゆっくりで、象徴的です。

    確認した情報源: 国立国会図書館サーチ:忘れられた巨人(早川書房、2015年、土屋政雄訳)

  2. 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 村上春樹

    新潮社(新潮文庫) · 1985

    高い壁に囲まれた街に入るとき、影と引き離された「僕」は、図書館で一角獣の頭骨から古い夢を読む仕事につく。もう一方の章では、現代の東京で暗号を扱う計算士の「私」が、老科学者に意識の核へ組み込まれた思考回路をめぐる騒動に巻き込まれていく。二つの物語が交互に進み、やがて「心」と「記憶」がどこに宿るのかという問いでつながります。記憶をなくすことが、喪失なのか、それとも静かな平穏なのか。読み終えたあと、どちらの世界に心が残るかで、自分の答えが分かるような小説です。

    向かない人:

    村上春樹の比喩の多い文体が苦手な人、あるいは記憶喪失をリアルな病気として描いた小説を探している人。

    確認した情報源: 新潮社:世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〔上〕(新潮文庫)

タイプ別早見表

読みたい気分おすすめ
泣ける恋愛『今夜、世界からこの恋が消えても』
温かい読後感『博士の愛した数式』
現実的な人間ドラマ『明日の記憶』
不朽の名作『アルジャーノンに花束を』
幻想的な忘却の世界『密やかな結晶』『忘れられた巨人』
現実と幻想のあいだ『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』

記憶喪失ものを選ぶときのポイント

  • 「誰の」記憶が消えるのか:主人公か、相手か、世界全体か。視点によって読み味が大きく変わります。
  • リアル寄りか、幻想寄りか:病気を描く物語と、不思議な設定の物語では、受け取る感情が違います。
  • 読後感:泣きたいのか、温まりたいのか、考え込みたいのか。気分で選ぶのもおすすめです。

病気としての記憶の喪失をもっと読みたい人は認知症を描いた小説のおすすめを、夜の旅と別れの物語なら『銀河鉄道の夜』みたいな小説を、夢と現実のあわいを描いた作品なら幻想小説おすすめもどうぞ。

よくある質問

読者からよく聞かれること

記憶喪失の小説で、泣ける恋愛ものは?

『今夜、世界からこの恋が消えても』が代表的です。眠るとその日の記憶を失ってしまう少女との恋を描いています。

記憶喪失を扱った名作小説は?

『博士の愛した数式』『アルジャーノンに花束を』『明日の記憶』などが、長く読まれている作品です。

ファンタジーで記憶をテーマにした小説はありますか?

『忘れられた巨人』と『密やかな結晶』です。どちらも、記憶が消えていくことが個人ではなく土地や島全体に起きる物語です。

認知症を描いた小説も読みたいのですが?

『明日の記憶』のほか、家族の目と本人の目から描いた小説を認知症を描いた小説のおすすめにまとめています。

もうひとつの予告編(30秒)